今後のスタイル。着物、日本刺繍から見えてきたもの

個展が終了してからずっと考えていることがあります。

今後、自分の作品のスタイルをどうしていくか、ということです。

個人的には、華やかで、装いの主役になるようなハンドバッグを普段から多くの女性に持って欲しい、と思っていました。

 

でも、個展に来てくださった方々から、『美しい作品だけど、どこに持って行ったらいいの?』とか、『パーティ用なら良いのだけれど…..。』『アクセサリーは作らないの?』などのご意見をいただきました。

11月の個展では、デモンストレーションの意味もあり、大きめな作品が多かったのですが、プロとしての販売を思えば、実用的なものにやはり注目していかなければなりません。お求めいただき、使っていただいてこそが、プロの仕事なのですから。

そこで、刺繍バッグは小さいパーティー用、またはお着物用のものだけ、コサージュやブローチ、帯留や鼻緒(場合によっては半襟なども)などのアクセサリー類に当分絞っていこうと思います。刺繍のない革のバッグは、オーダーのあるものだけにするつもりです。

 

そう考えていたら、見てみたい!と思える展示会が2つありました。

着物コレクター、デザイナー、コーディネーターとして活躍された、池田重子横浜スタイル展と、日本刺繍の大家、草乃しずか展です。

まずは池田重子横浜スタイル展に行きました。存じ上げなかったのですが、残念なことに平成27年に故人となられていました。以前、何かの展示会で、2、3点そのコレクションを見たことがありました。数は少なかったのですが、洗練された配色などとても印象的だったことを覚えています。

こちらが今回の展示会のフライヤーです。

拝見して、池田先生の膨大なコレクションとお仕事に衝撃を受けました!

まず、こんなに季節感を表現できる衣装が、世界の他の国にはあるのだろうか、という驚きでいっぱいになりました。春夏秋冬それぞれを連想させるモチーフのお着物、ということはもちろんですが、半衿や帯留めのコーディネートが尋常でなく、ドラマティックで美しいのです。

池田先生ご自身は、『日本の美は四季によって生み出されるから、季節感は欠かせない』『横浜生まれだから、京都のはんなりよりも粋な感じの江戸好み。大胆にして繊細、粋に走りすぎず野暮にならず、ギリギリの線を見極めるよう心を配る』とおっしゃっています。(展示会図録より)この独特のスタイルを横浜スタイル、と命名されていました。

お言葉通りの素晴らしいコーディネートやそれを構成する一点ずつの展示物の放つオーラに圧倒されてしまいました。

そして、私もこんな風に、人の心を掴み、ドキドキさせるものを私の手の中から生み出したい、と思いました。

 

この素晴らしい展示会から間をおかず、今度は日本刺繍の草乃しずか先生の展示会にも足を運びました。

私のするオートクチュール刺繍は、ビーズやスパンコールを多用します。でも、かえってそのせいなのか、糸刺繍の美しさにとても心惹かれます。

様々な素材を駆使するオートクチュール刺繍の中で、糸の上品な輝きが際立つような気がするのです。喩えて言えば、カラフルな宝石類の中の真珠、といったところでしょうか。

レーヨン糸や絽刺し糸はもともと好きでよく作品に使うのですが、最近京都で求めた絹糸を使ってみて、その美しさの虜になってしまいました。今後はもっと糸を重視した作品を作りたいと思っています。

なので、是非草乃先生の作品も拝見したかったのです。

日本刺繍は基本、絹地に絹糸で刺す刺繍です。ウール、木綿などが中心のヨーロッパ刺繍とは素材がまず違います。

それは、主に上流女性の嗜みとしても発展したヨーロッパ刺繍と違い、日本刺繍は職人さんがする、製品を生み出す工芸技術として発展したからでしょうか。

また糸は日本刺繍はよりをかけて使いますが、ヨーロパ刺繍はむしろ糸のよりを戻し、フラットにして使います。(どちらの刺繍も刺繍の種類によって違う場合もあります)

明治以降は女子大などでも多少は学べたようですが、草乃しずか先生が教えてくださるまでは、ほとんど一般の人は日本刺繍を体験することはできませんでした。

テクニックは私が学んだフランス刺繍とほぼ同じです。

今回、幸運にも草乃先生のスタッフの先生による体験ワークショップに参加することができました。

これは、ワークショップの体験キットで製作したコンパクトミラーです。

手のみで刺す刺繍は久しぶりでワクワクしました。あ〜私って、やっぱり刺繍が好きなんだ!そう思いました。

『あら、あなたフランス刺繍の経験者なのね。だったら話が早いわ。』と、講師の先生に言われてしまいました。

実際経験してみると、確かにテクニックはフランス刺繍とほぼ同じです。でも、糸の扱い方や、針の出し方がやはり違います。それに、刺繍に対する考え方もやはり違う気がします。

私が学んだフランス刺繍の先生は、『針目がびっしり詰まっているより隙間が開く方がいいのよ。後から刺し足したりしないようにね。』とよくおっしゃっていました。これはのびのびとした空気感を表現し、勢いを出すように、という意味だと理解しています。またそれが個性につながる、ともおっしゃっていました。

でも、日本刺繍の今回の先生は、隙間が開くことを『気持ちが悪い、開いちゃったところは後で刺し足してね。』とおっしゃいました。

確かに草乃先生の作品は、緻密で静謐な感じです。そしてそれが無個性だ、というわけではありません。制約の中で、静かに主張している、といった感じでしょうか。

どちらがどうということではなく、やはり民族性、国民性の違いなのだな、と思いました。

ワークショップ終了後、ゆっくり作品を堪能したのですが、やはり素晴らしかったです。

歴史上の女性をイメージして制作された美しい振袖が何点もあったのですが、きっと来場された方々は、私だったらこれが来てみたい、と思われたのに違いありません。

また日本に古来からある伝統的な模様のサンプラーもたくさん展示されていました。とても興味深く、デザインの参考になりそうなものがたくさんありました。

以前から、和装に関するものに興味がありました。お着物が好き、という単純な想いからでしたが、今回、この素敵な表現に自分も加わりたい、と思いました。

2つの素晴らしい展示会のおかげで、これからの作品作りがより充実したものになるような気がします。

しばらくお休みしていましたが、材料を揃え、これから季節の花のコサージュに取りかかります。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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