袋帯『クロアゲハ、琵琶を奏でる』1 デッサン

新作の袋帯『クロアゲハ、琵琶を奏でる』のデッサンのご紹介です。

何だか長いタイトルですが譲れません。

注文していた帯地の反物が染め屋さんからあがってきました。

春霞の空のような優しい素敵なブルーです。刺繍に入ったらお見せしますね。ただ、微妙な中間色なので、画面ではちょっと色味が分かり辛いかもしれません。

 

これがデッサンですが、刺繍できる図案にするまでああでもないこうでもないと大変な思いをしました。

モチーフはずっと前から憧れていた、正倉院螺鈿の琵琶です。

これは絵はがきの写真です。とにかく美しいですね〜。みなさまよくご存知ですよね。教科書なんかにも載っていたかな。

この宝石のような琵琶、いつか刺繍してみたいと思っていました。そして、できることなら演奏してみたいなあ。もちろん琵琶なんて弾けませんが。

そして、たまたま遊びに行った渓谷で、クロアゲハを見ました。

大きくてゆったりとした存在感際立つ美しい蝶です。

黒からグレー、白、差し色はオレンジというなんだかアバンギャルドな姿!

その軽やかなのに堂々とした姿に舞い上がってしまった私は、美しい写真が撮れませんでした。ごめんなさい⤵️

とにかく、この蝶を見た瞬間、私の中でビビビ!と螺鈿の琵琶と繋がりました。

このクロアゲハが螺鈿の琵琶を弾いたら素敵じゃない!

 

作品には物語が不可欠です。

 

正倉院螺鈿の琵琶といえば奈良時代、奈良の都といえば百人一首の『いにしへの奈良の都の八重桜今日九重に匂ひぬるかな』の句がまたまたパッと浮かびました。

つまり、八重桜が奈良の都の象徴です。

なので、八重桜の中で、クロアゲハ(もしかしたら化身した殿上人かも!)が琵琶を奏でている、という物語が浮かびました。

ぜひぜひお太鼓はそんな風景のデザインにしなくっちゃ!

というわけでこんなデッサン画となりました。

でもでも八重桜って、こんなお花……………。

花びらがまるでカーネーションやバラのように重なっています。

こんなの刺繍できるのかしら?

できるできる、今までだって、こんなこと本当にできるかな、っていうこともなんとかクリアしてきたじゃない

と、えいや!で船出しましたが何度も描き直す羽目になりました。

まず、花と琵琶の描写が、自分ではそれなりにしたつもりなのに、日本刺繍をご指導いただいている沖文先生に、

『こんなデザインでは細かすぎて刺せない。まず布に写らない。』と指摘されてしまいました。

う〜ん、確かに〜。針の穴に象は通りませんよね。

なので、先生のアドバイスに基いて、琵琶のデザインや八重櫻をかなりシンプルにしました。それでも桜はかなり大変そう。まあ、お花は前回のリンゴの花の経験で、なんとかなるでしょう。

そして、蝶々が琵琶を弾いているのですから、それらしい角度を何度も描き直しました

結局、デッサンにひと月もかかってしまいましたが、本当にいつも先生のアドバイスは的確です。我ながら魅力的なものになりました。

 

そして琵琶はアップリケやオートクチュール刺繍のテクニックを使っちゃうことにしました。

いいの?

『どこに問題があるんですか?オートクチュールの技は石原さんにしかできないことですよ。やっちゃいましょう!』

まさに蝶のように軽やかに、柔軟で大胆な先生のご意見!

先生が私の先生でよかった!これだから沖文先生って素敵!

先生とのレッスンは楽しい企みに満ちている感じです。

デザインを布に移して、気になる部分を試し刺しして、いよいよ制作に取り掛かります。

+日本刺繍作家 : Junco Ishihara (石原順子)

 

 

 

 

 

 

作品やホームページに関するお問い合わせはこちらからお願いします。