オートクチュール刺繍、日本刺繍、革、絹など様々な手法や材質を駆使した一点もののハンドバッグやアクセサリーをデザイン起こしから完成まで全て自ら制作しています。
オートクチュール刺繍とは
一般的には、高級仕立て服を手がけるメゾン(パリコレなどに参加し、世界中に展開している高級ブランドの会社を指していると思ってください)を支えるために、長い時間をかけて発展、昇華してきたフランス伝統の刺繍です。
特殊なかぎ針を使ってビーズやスパンコールを生地の裏側から刺繍します。職人を養成するためのルサージュという専門学校があります。近年は日本やアメリカからの留学生がとても多いそうです。
そして、面白いことにこの刺繍はインドでもまったく同じように発展してきました。
もしかしたらこちらが先なのでは?と思えてしまいます。
近代国家になる以前、インドにはマハラジャ(地方領主)がたくさんいて、贅を極めた装飾品が求められました。それに答えてフランスの刺繍と変わらない、アリワークと呼ばれる刺繍が盛んに行われました。出来上がりはほぼフランスのものと同じなのに、こちらはビーズやスパングル(とインドでは呼びます)をやはり特殊なかぎ針で、生地の表から刺繍します。私が学んだのはこのアリワーク刺繍です。
フランスと違うのは、この刺繍は専門の職人の子孫の男子にだけ受け継がれてきました。5歳くらいになるともう針をもたせるのだそうです。ドクターよりも良い収入を得られるとの事。私がもしインドに生まれたらこの刺繍は叶わなかったわけです。
ただ、オートクチュール刺繍とは、確かに特殊なかぎ針での刺繍を指すことが多いですが、実際はあらゆる刺繍のすべてのテクニック、すべての材料を駆使して行う刺繍のことです。
この刺繍を学ぶ前に、ヨーロッパ刺繍全般を学んだのですが、それが大変役に立っています。
日本刺繍のこと
長い間色々な刺繍を続けてきてなお、気になっていた刺繍です。
今はオートクチュール刺繍や、他のヨーロッパ刺繍とクロスオーバーさせて、新しい表現がしたい、と考えています。
私にとって 日本刺繍は『絹地に絹糸でお着物などにする贅沢な刺繍』そして、材料が違うだけで、いわゆるフランス刺繍と変わらない、わざわざ習わなくても….、というイメージでした。
それなのにこの刺繍に チャレンジするきっかけは偶然見つけた京都の老舗糸屋さん。行ってみると、ここでしか、今しか買えない、と言われて絹糸を大量大人買いしました。それを試しに刺繍してみると、オートクチュール刺繍の世界でよく使う華やかに輝くシルクレーヨン糸とはまた違う、上品で幽玄な、なんとも言えない美しさ。すっかり虜になってしまいました。
『これは習うしかない!絹糸の扱い方を知りたい!』早速先生を探し、通い始めました。枠に布を張り、両手を使うのはオートクチュール刺繍と同じ。ただ色々な考え方など独自なものがあり、もう夢中になっています。絹糸のみならず、金糸、銀糸、錦糸の扱いもこの刺繍ですっかりマスターしました。色は糸をより合わせて自分で作り出すことができ、色数は無限にあります。四季がはっきりしていて、それによって培われたであろう日本人の繊細な美意識をしみじみ感じています。
3D刺繍とは
様々な手法の刺繍を学び、融合させ、なんとか立体的に表現できないか、外に持ち運びできないか、単なる文様ではなく、刺繍それ自体が主役の(もちろんまとうその人自身が主役であるのはいうまでもありません)装いや自己表現ができないかと命名したのが3D刺繍です。
今はワイヤーなどを刺繍に忍び込ませて思うように形を作るテクニックを多用しています。この先また別の表現が出てくるかもしれません。
アクセサリーとしてこの刺繍作品を仕上げていますが、感動したもの、光景などをオブジェとしても形にしたいと思っています。
革のこと
皮革の種類は大きく3つに分けられます。
- 原料皮による分類…………牛、羊、山羊、豚、馬、鹿、オーストリッチ、カンガルー、爬虫類など
- なめし方法による分類
- 革のタイプによる分類……スエード、様々な加工がされたもの、プリントもあります。
私が使うのは一般的な牛、羊、豚が多いです。不思議なことに、刺繍と組み合わせてみると、フラットな一般的なものよりも、様々に加工されて表情がある革の方が相性が良いようです。爬虫類も魅力的ですが、実物は傷が多かったり、模様が大きすぎたり、高価であったり、ちょっと使いづらいので、型押しの牛革などを使います。
いずれにしても刺繍とピッタリ合う革を見つけ出すのは難しく、相談できる革屋さんが何軒かありますが、なかなか思い通りのものを手に入れるのは大変です。
年2回、東京レザーフェアーという皮革周辺業者が一同に介する催しがあり、色々見て回ります。とても勉強になります。
革を縫う、というと驚かれますが、そのための専用ミシンを持っています。革は厚いので、薄くして縫いやすくしたり、全体の重量を減らすための、革漉き機もまた持っています。
人に個性があるように、一枚一枚の革にも個性があり、それぞれに手当が必要です。それが作品に表情を与えてくれますが、難しいところでもあります。
3D刺繍アーティスト:Junco Ishihara (石原順子)